AIが悪いのではなく「何を任せたか」が分からなくなる方が怖い

この記事の要点

  • AIを使うこと自体より、「自分が何をAIへ任せたのか」が見えなくなることに注意した方がいいと思います。
  • 704人を対象にした実験では、AIへの認知的オフロードを意識させるフィードバックによって、完全解答をAIへ求める行動が減り、その後のAIなし課題の成績も改善しました。
  • AIを使った仕事の最後に「今日、AIへ何を任せたか」を一度確認するだけでも、自分で残したい能力を意識しやすくなります。

どうも岩崎です。

9月6日のブログでは、AIを開く前に自分の考えを3行だけ書いて、そのあとAIに反証させる、という話をしました。

今日はその続きみたいな話です。

最近AIを使っていて、ちょっと怖いなと思うのが、「AIを使ったこと」ではなく、「自分がどこまで考えたのか分からなくなること」なんですね。

答えは出る。文章も整う。企画もそれなりに完成する。なので仕事はちゃんと前へ進んでいるように見えます。

でも、その仕事の中で本来自分が鍛えたかったところまでAIへ渡していたとしても、完成物だけを見ているとなかなか気づきません。

ここがやっかいなんですよね。

AIへ頼った量ではなく「何を頼ったか」を見る

例えばコピーを書く仕事を考えてみます。

お客さんの口コミが100件あったとして、それを全部読んで分類して、似た内容をまとめて、頻出する言葉を整理する。

ここはAIにかなり任せてもいいと思います。

でも、その先の、

  • このお客さんは、本当は何に困っているんだろう?
  • なぜこの言葉に反応したんだろう?
  • 今回の広告では、どの悩みを扱うべきだろう?
  • 自分たちは何を伝えるべきだろう?

ここまで全部AIに決めてもらったら、コピー自体は完成します。

でも、自分のお客さん理解がどのくらい増えたかというと、ちょっと怪しいですよね。

完成物はできている。でも、自分の中にはあまり残っていない。

これが今回の話です。

704人の実験で「任せたことを意識させる」方法が試された

2026年9月17日、LMU Munichなどの研究チームが、この問題にかなり近い実験をarXivで公開しました。

参加者は704人。オンラインで分数の計算を練習し、必要に応じてLLMの支援を使えるようになっていました。

AIは基本的にはヒントや途中の支援をしますが、参加者が求めれば完全な解答まで教えてくれます。

研究者が見たのは、「どこまでAIへ答えを任せるか」です。

「AIを使わないと得」では、あまり変わらなかった

研究では、大きく2種類の介入が試されました。

  • メタ認知フィードバック:AIへ認知作業を任せることが自分の学習にどう関係するかを意識させる
  • 努力ベースの報酬:AIへ頼る量が少ないほど多くポイントをもらえる

普通に考えると、「AIへ頼らない方がポイントをもらえるよ」と言われれば、自分で考えるようになりそうですよね。

ところが、この報酬方式については、研究で明確な効果は確認されませんでした。

一方で、メタ認知フィードバックを受けた人では違いが出ました。

「自分がAIへ任せていること」を意識すると使い方が変わった

メタ認知フィードバックを受けたグループでは、完全な解答をAIへ求める行動が減りました。

研究で報告されたオッズ比は0.47です。

さらに練習後、今度はAIを使わずに解くテストを行ったところ、正答するオッズも上昇しました。こちらのオッズ比は1.51です。

ここは数字の読み方にも注意が必要です。

OR1.51だから「テストの点数が51%上がった」という意味ではありません。正答するオッズについての比率です。

でも方向としては面白いですよね。

AIを禁止したわけでもない。使う量を強制的に制限したわけでもない。

自分が何をAIへ任せているのかを意識しやすくしたことで、その後の使い方が変わったわけです。

つまり「AIを使うな」という研究ではない

ここはかなり大事です。

今回の結果を見て、「ほら、AIを使うと頭が悪くなる」とするのは違います。

そもそも、この実験ではAIを使える環境の中で、どうすれば必要以上に完全解答へ頼らなくなるかを調べています。

しかも課題は分数計算です。

広告制作でも、コピーライティングでも、経営判断でもありません。

なので、この結果から「AIを使うと仕事の能力が落ちる」と一般化することはできません。

ただ、仕事へ持ってくるなら、

「自分は今、何をAIへ任せているんだろう?」を見えるようにする。

このくらいの使い方なら、かなり参考になると思います。

写真でも「作業」と「判断」は分けた方がいい

写真でも似ています。

例えば撮影後に、

  • ピンぼけを除外する
  • 似たカットをグループ分けする
  • ファイル名を整理する
  • 縦横比ごとに書き出す

みたいな作業は、AIや自動化へ任せてもいいですよね。

でも、

  • どの写真が一番この商品の価値を伝えているだろう?
  • お客さんに最初に何を見せるべきだろう?
  • この広告では何を認知してもらいたいだろう?
  • どの写真ならコピーと一番つながるだろう?

ここまで全部AIへ渡すと、写真は選べても、自分の「見る力」はあまり使わなくなります。

だから、任せる量ではなく、何を任せているかを見るんですね。

「面倒な作業」と「鍛えておきたい能力」は同じではない

AIを使う時って、面倒なことを任せたくなります。

これは普通です。私もそうですw

でも、面倒だからといって、全部なくしていいとは限りません。

例えば文章を書くのって面倒です。

でも自分の考えを文章にすること自体が、自分の考えを整理する練習になっているなら、そこを全部AIへ渡すと少し話が違います。

お客さんの口コミを読むのも時間が掛かります。

でも、その中から「この人、本当はこういうことを言いたいんじゃないかな」と考えることがお客さん理解の練習なら、そこまで全部要約だけで済ませるのはもったいない。

その作業が面倒かどうかではなく、その中に自分が残したい能力が含まれているか。

私は、ここを見た方がいいと思います。

認知的オフロード自体が悪いわけではない

こうやって頭の中でやっていた処理を、外部の道具へ任せることを認知的オフロードといいます。

メモを取るのもそうです。計算機を使うのもそうです。カレンダーへ予定を入れて覚えなくてよくするのもそうです。

つまりAIだけの話ではありません。

2026年3月に Humanities and Social Sciences Communications で公開されたレビューでも、認知的オフロードは問題解決や学習の効率を高める面がある一方、何を外部へ任せるかという判断にはメタ認知が関係すると整理されています。

要するに、

外へ任せること自体ではなく、「何を任せているか」を自分で把握できているか。

ここですね。

AIを使った後に「1行」だけ残す

じゃあ仕事で何をすればいいのか。

私は、そんなに複雑にしなくていいと思います。

AIを使った仕事が終わったら、1行だけ書く。

「今日、AIに任せたのは何だったか」

例えば、

  • 情報収集を任せた
  • 分類を任せた
  • 文章のたたき台を任せた
  • 結論まで任せた
  • 写真選びまで任せた

これだけです。

そのあと、もう一つだけ考える。

「ここって、今後も自分で考えられるようにしておきたい部分だろうか?」

もし「別にできなくても困らない」なら、どんどんAIに任せていいと思います。

でも「ここは自分の仕事の質に関わるな」と思ったら、全部は渡さない。

このくらいでいいと思うんですね。

AI時代は「何ができるか」より「何を残すか」を考える

AIの性能はどんどん上がっています。

文章も書ける。分析もできる。画像も作れる。調査もできる。資料も作れる。

そうなると「AIに何ができるか」は、だんだん問題じゃなくなってきます。

できることは、どんどん増えるからです。

その時に重要になるのは、

「その中で、自分は何を残しておきたいんだろう?」

という方だと思います。

お客さんを理解する力。写真を見る力。文章を書く力。何が重要かを判断する力。

AIに任せることで時間を作る。でも、自分に残したい部分まで全部渡さない。

このバランスを自分で分かっていることが、AIを使いこなすことなのかもしれません。

今日のチェックリスト

最後に、今日AIを使った仕事を1つだけ思い出して、自分に次の質問をしてみてください。

  • 今日、AIに任せたのは具体的に何だっただろう?
  • 単純な作業を任せたのか、それとも判断まで任せただろうか?
  • その部分は、今後も自分でできるようにしておきたい能力だろうか?
  • AIがなかったとしても、自分なりの考えを説明できるだろうか?
  • 次回も同じところまでAIに任せていいだろうか?

今日はAIの使い方を変える必要はありません。

まず仕事が終わった後に、

「今日、AIに任せたのは何だったか」

を1行だけ残してみる。

AIを使う量より、自分が何を渡しているのかを見えるようにする。

私はここからで十分だと思います。

それでは!

よくある質問

AIを使うと考える力が落ちるのでしょうか?

今回紹介した研究だけから、AI利用によって仕事上の思考力が低下すると一般化することはできません。704人の実験は分数計算の練習課題を使ったオンライン実験です。示されているのは、AIへの認知的オフロードを意識させるフィードバックによって、完全解答への依存が減り、その後のAIなし課題での成績が改善したという点です。

認知的オフロードとは何ですか?

頭の中で行っていた記憶、計算、整理などの認知処理を、メモ、計算機、カレンダー、AIなどの外部の道具へ任せることです。オフロード自体が一律に悪いわけではなく、何を任せるのか、その判断を自分で把握・調整できているかが重要だと考えられています。

仕事では、どこまでAIに任せればいいですか?

一律の線引きはありません。情報整理や定型処理のように任せても困らない部分と、お客さん理解、判断、文章、写真選びなど自分で残したい能力を分けて考えると整理しやすくなります。「AIがなくても自分なりの考えを説明できるか」を一つの確認方法にできます。

P.S.

AIに何をやらせたかって、意外とすぐ忘れます。1行残すだけなら30秒も掛からないので、自分の仕事で何を外へ渡しているのか、一度見てみると面白いと思います。

いわさきじゅん

1998年に広告制作会社で写真が始まり、アートイベント会社の広報として活動していました。まだあまりウェブマーケティングが普及していない2006年からSEO(検索エンジン対策)・リスティング広告(PPC広告)・LPO(ホームページ対策)・コピーライティングなど、サポートをしています。

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