この記事の要点
- 同じ情報に繰り返し触れると、その内容をより真実らしいと判断しやすくなる「真実性錯覚」が研究で確認されています。
- 仕事でも「よく聞く話」が、いつの間にか「確認済みの事実」に変わってしまうことがあります。
- 判断する時は、「何度見たか」と「どれだけ根拠があるか」を分けて、一度だけでも一次情報へ戻ることが大切です。
どうも岩崎です。
昨日、日本認知心理学会が「偽・誤情報に挑む認知心理学―陰謀論・疑似科学・フェイクニュースを信じるのはなぜか?」という公開シンポジウムを開催していました。
こういう話って「嘘を見抜く能力」の問題だと思いがちなんですけど、実際はそれだけじゃないんですね。人がどう記憶して、どう判断して、間違いだと訂正された後でも、なぜその情報の影響が残るのか。かなり認知の仕組みに関係しています。
その中でも仕事にそのまま関係しそうなのが、「何度も見た情報ほど正しく感じやすい」という現象です。
今日はそんな話です。

何度も見ると、それだけで「本当っぽく」なる
心理学では、同じ情報に繰り返し触れることで、その情報をより真実らしいと評価しやすくなる現象を「真実性錯覚(Illusory Truth Effect)」と呼びます。
2026年2月にNature Communicationsで公開されたメタ分析では、1977年から2025年までの182研究、366の効果量、合計31,184人分のデータが統合されました。その結果、小規模研究などの影響を補正した後でも、反復によって真実らしさの評価が上がる効果が確認されています。
補正後の効果量はg=0.37。ものすごく巨大な影響という話ではありませんが、研究条件がかなり違う多数の実験をまとめても、繰り返しの影響が残ったというところが重要です。
つまり、「よく見るから知っている」ことと、「根拠があるから正しい」ことは別なんですね。
仕事では、この錯覚がかなり入り込みやすい
これってフェイクニュースだけの話ではないと思うんですよ。
仕事をしていると、こんな話をよく聞きます。
- 「いまは動画の時代だ」
- 「長いLPは読まれない」
- 「値上げすると売れなくなる」
- 「この広告媒体はもう効かない」
- 「この業界ではこれが常識だ」
SNSで見る。同業者が言っている。営業担当から聞く。クライアントからも同じことを言われる。そうやって何度も触れているうちに、いつの間にか「よく聞く話」から「確認済みの事実」へ昇格してしまうことがあります。
でも、よく考えると一度も元データを見ていなかったりするんですよねw
「みんなが言っている」は根拠にならない
例えば「長いLPは読まれない」という話を何度も聞いたとします。
じゃあ、本当に長いから読まれないのでしょうか。興味がないから読まれないのかもしれない。文章が分かりにくいのかもしれない。購入に必要な情報が前半だけで揃ったのかもしれない。逆に高額商品なら、長くても必要なところまで読む人はいるかもしれません。
「長いLPは読まれない」という一文だけでは、本当はほとんど何も判断できないんですね。
ところが同じ言葉を何度も聞いていると、前提そのものを疑わなくなってきます。
聞いた回数が増えただけなのに、証拠が増えたような感覚になる。
ここは気をつけた方がいいと思います。
一人で仕事をしているほど、前提の間違いがそのまま実行される
特に一人や少人数で事業をしている場合、この影響はけっこう大きいです。
会社なら「その前提、本当?」と言ってくれる人がいるかもしれません。でも一人で制作、広告、提案までやっていると、判断する人と実行する人が同じです。
例えば、
- 「動画じゃないと売れない」と思って動画ばかり作る
- 「価格が原因」と思って安くする
- 「この媒体は終わった」と思って配信を止める
- 「長文はダメ」と思って必要な説明まで削る
みたいに、前提を一つ取り違えると、そのまま広告、撮影、LP、価格、提案内容まで連鎖します。
能力の問題というより、最初に置いた前提が間違っていたというだけだったりするんですね。
「間違いです」と訂正すれば消えるとも限らない
さらに面白いのが、誤情報って訂正すれば全部消えるわけでもないということです。
日本心理学会第89回大会の発表論文集で、2026年3月にJ-STAGE公開された研究では、20〜70歳の607名を対象に、誤情報とその撤回の影響が調べられました。
実験では、「誤情報を見せた後に撤回する」条件だけでなく、最初に誤情報そのものを見せず、「その情報は誤りだった」という撤回だけを提示する条件も用意されています。
その結果、誤情報を直接提示されていない「撤回のみ」の条件でも、何も提示されなかった統制条件より、後の質問で誤情報に相当する選択肢を選ぶ割合が高くなりました。研究者はこの現象について、訂正文の中に含まれる誤情報への言及が影響する可能性を「Cognitive Void Filling Bias」として提案しています。
ただし、これは学会大会の発表論文集に掲載された研究で、新しく提案された概念です。これだけで一般的な認知バイアスとして確立したと考えるのは早いです。
それでも、「否定して伝えれば、元の情報の影響はゼロになる」と単純には考えない方がいいという示唆はあります。
間違いを訂正する時も「正しい情報」を前に出した方がいい
仕事でも、これに近いことはありますよね。
例えば「この商品には○○という危険はありません」と何度も書けば、こちらとしては否定しているつもりでも、お客さんの頭には「○○という危険」という言葉自体が残る可能性があります。
だから訂正する時は、間違った話だけを繰り返すより、「実際はどうなのか」という正しい説明を一緒に出す方が分かりやすいと思います。
「○○ではありません」で終わるのではなく、「実際には△△です。その根拠はこちらです」まで出す感じですね。
情報量を増やせば判断力が上がるわけではない
今は情報を集めること自体は簡単です。
SNSを開けばいくらでも流れてきますし、AIに聞けば数秒でそれっぽい説明が出てきます。YouTubeを見れば専門家らしい人もたくさんいます。
でも情報量が増えると、同時に同じ主張を見る回数も増えます。
だから情報をたくさん集めるだけではなく、頭の中で次の2つを分けておいた方がいいんですね。
- よく見る・よく聞く:接触回数が多い
- 根拠がある:一次情報やデータを確認している
この2つは別物です。
何度見たかと、どれだけ根拠があるかを分ける。
これだけでも判断の精度はかなり変わると思います。
「この業界では常識です」と言われた時ほど一度戻る
私が特に気をつけたいと思うのは、「常識」という言葉です。
「この業界では常識ですよ」「みんなそうしています」「最近はこれが普通です」と言われると、それだけで反論しづらくなりますよね。
でも本当に確認したいのは、みんなが言っているかではなく、
- 誰が調べたのか
- いつのデータなのか
- どんな条件で出た結果なのか
- 自分の商品やお客さんにも当てはまるのか
こっちです。
一度ここまで戻れば、「知っている話」と「使っていい前提」を分けやすくなります。
今日の実務調整は「今週3回聞いた常識」を1つ確認する
ということで、今日は今週の仕事をちょっと思い返してみてください。
3回以上見たり聞いたりした「常識っぽい話」を1つだけ選びます。
例えば、
- いまは動画じゃないと見られない
- Meta広告よりGoogle広告の方がいい
- 値上げしたら売れなくなる
- 長い記事はSEOに不利
- 若い人は○○を使わない
何でも構いません。
そして今日は反対意見を10個探す必要もないですし、何時間も調査する必要もありません。元になった調査、公式発表、一次データを1つだけ確認してみる。
「よく見るから正しい」ではなく、「確認したから前提にする」。
心理学や認知科学をたくさん覚えることより、この習慣の方が仕事では使えるんじゃないかなと思います。
それでは!
よくある質問
-
真実性錯覚とは何ですか?
-
同じ情報に繰り返し触れることで、その情報をより真実らしいと評価しやすくなる現象です。2026年のメタ分析でも、182研究・31,184人のデータを統合した結果、小さいながら一貫した効果が確認されています。
-
何度も聞く情報は、間違っている可能性が高いのでしょうか?
-
そういう意味ではありません。正しい情報も繰り返し目にします。問題は、接触回数の多さを「正しさの証拠」と混同することです。何度見たかとは別に、一次情報やデータを確認する必要があります。
-
間違った情報は、訂正すれば影響をなくせますか?
-
必ずしも完全に消えるとは限りません。誤情報の影響が訂正後も残る現象は以前から研究されています。国内の学会発表では、誤情報を最初に直接見せず撤回文だけを提示した条件でも、その中に含まれる誤情報への言及が後の判断へ影響する可能性が示されています。ただし、この研究で提案された概念はまだ検討段階です。
参考情報
P.S.
「これ、最近よく聞くな」と思った時こそ、一度だけ元ネタを見る。知っている話ほど確認しなくなるので、そこが一番危ないのかもしれません。
